東京て・あーて塾「触れるケア」“癒し癒され”開催しました!

 1月27日、て・あーて塾「“て・あーての基本”~触れるケア 五感を通して触れるケア技術を高める~」を開催しました。コロナ禍を経て、4年ぶりの対面開催です。会場37名、オンライン10名と多くの方の参加をいただきました。

オキシトシンの研究から、触れる力を再認識

 10年前の第1回て・あーて塾でも講師として登壇いただいた、山口創先生(桜美林大学リベラルアーツ群教授)の「看護における触れるケアのエビデンス」と題しての講義では、オキシトシン(幸せホルモン)の研究がさらに進んでいることが示されました。

 五感の出会いによる印象(初対面の2人の間で、他の感覚を遮断して触覚・聴覚・視覚の印象を比べる実験)では、触覚が「信頼感」も「親しみやすさ」も「再会の希望」も、最も好印象という研究結果が得られたそうです。
 私たち日本人は握手にさほど馴染みがありませんが、触れることを心がけたい、と思わせる研究データの紹介でした。

 施術によるオキシトシンの変化については、相手のことを思いながら実施する施術者のオキシトシンが有意差を持って上昇することに加えて、ストレス反応を抑制する力もあるとのこと

 オキシトシンを分泌させる方法として、「スキンシップ」「人に親切にする(ボランティア)」「目を見つめ、優しく話しかける」「ストレスをためない」「五感への快刺激」「ペットを飼う(犬が一番)」「共食(鍋を囲むなど、一緒に食事をする)」の7つが挙げられるそうです。

 また、看護師対象のアンケートでは、“気持ちよさ”をもたらす看護ケアとして、マッサージ、温罨法、足浴、入浴などが挙がり、その気持ちよさを生むケアの効果には、「気分の良さ」「症状の緩和」「活力の高まり」「関係性の広がり」「生活活動の増大」「生活リズムが整う」などがあるそうです。

 マッサージは受けるほど痛みが減ることや、心地よいと感じる布(ファー)に触れていると痛みが減少する、という実験結果もありました。術後の痛みを和らげるには、ふわふわの毛布などに包まれるとよいかも? とのことでした。

高齢者へのスキンシップ──触れることで孤独感を癒す

 幼少期のスキンシップの重要性は一般的にも知られていますが、壮年期から高齢者にもスキンシップは必要。壮年期には”孤独うつ”もあるそうです。

 ただし、高齢者へのタッチでは、以下のことに気をつける必要があります。
・高齢者は、さまざまな身体疾患(皮膚の搔痒、高血圧、不眠、便秘、血行不良など)を持っていることが多い。
・皮膚へのやわらかく温かいタッチは、孤独感を癒し、不安を低減、痛みの低減が期待できるが、高齢者は結晶性知能(これまでの人生経験から学んだ知能)が高いことが多いので、尊敬の念を持って触れることが必要。

 高齢者とのコミュニケーションの際には、非言語的コミュニケーションも有効で、低めの声でアイコンタクトとともに触れることで、安心・安全、安楽を伝えることができるそうです。感染対策などで触れることが難しい状況であっても、アイコンタクトに大きな期待が持てそうです。 

 「触れることは愛すること」「触れることの本質はいのちに触れること」という山口先生の言葉を胸に、触れるケアを現場に応用していきたいと思います。また、参加者の中には大学や看護学校の先生方が多く、この講演をきっかけに今後の看護教育が変わるかも? と嬉しくなりました。

軽く触れる、軽擦法の極意を学ぶ

 午後は、河内香久子先生(治療室シーズ院長)による、「いつでもどこでもできる触れる技“軽擦法の極意”」でした。2人1組になって触れたり触れられたり、まさに”癒し癒されの時間”。普段から触れることはあっても触れられる体験は少ないので、その心地よさにうっとりするひとときでした。

 眠れないと訴える高齢者に睡眠薬を渡すとき、相手の話を聴きながら背中をさすったり、手に自らの手を重ねたりといった、わずかな時間でも触れる行為は、気・血(エネルギー)の巡りをよくし、精神的なリラックスをもたらします。
 具合の悪そうな方に“大丈夫ですか?”と言葉をかけながら、自然に背中をさすっている場面がよくみられます。実際、肩甲骨間には「身柱・心愈」というツボがあり、ここを刺激すると副交感神経を優位にして自律神経を安定させる作用があるそうです。

 手技の実施者としての3原則は、垂直圧(体内に向けて垂直に)、持続(持続的に触れる)、集中(実施者の集中力に影響される)。
 相手を想って(気を集中して)しっかりと(垂直に)、ゆ~っくりと(持続的に)、自身の手(指)に気持ちを込めて(気を集中して)ケアすることがポイントです。

 

 看護技術として「指圧・マッサージ」の手技を活かす基本は、軽擦法「“いつでも”“どこでも”、撫でさする」です。
 触れるという看護の力によって、身体言語を聴き取ることができ、言葉の届かないところでもコミュニケーションが成り立ちます。忙しい臨床だからこそ、もっと手あて・タッチング・軽擦を。たった3分間というわずかな時間であっても、触れるケアがこんなにも心地よいことを参加者の皆さんと一緒に体感できました。

 臨床でも、身体に触れることを大切にしたケアができる看護師が増えますように。

〈重見美代子 記〉

2024年2月18日