東京て・あーて塾 ──触れること・手を用いてケアすることの大切さを深く学びました!

2月8・9日、千住介護福祉専門学校にて、東京て・あーて塾が開催されました。
日本て・あーて推進協会・健和会看護部の共催で、32名の方に参加いただきました。
プログラムの概要は以下の通りです。

2月8日(土)
桜美林大学 山口 創氏 「看護における触れるケアのエビデンス」(講演)
日本て・あーて推進協会代表理事/健和会臨床看護学研究所 川嶋みどり「て・あーての思想」(講演)
愛媛県立医療技術大学 窪田静氏「『動く』を支えるケアとしてのポジショニング」(講演)

2月9日(日)
愛媛県立医療技術大学 窪田 静氏「『動く』を支えるケアとしてのポジショニング」(演習)
日本て・あーて推進協会理事/健和会臨床看護学研究所 平松則子「熱布バックケアを極める」
グループセッション──講師と語ろう

「看護における触れるケアのエビデンス」

「身心一如」身体から形を整えることで心も整ってくるという道元禅師の教え―この言葉の意味を問うことから山口氏の講演がスタート。

数々の研究結果から感覚器を通した気持ちよさをもたらすケアがオキシトシンの分泌を促すことが示されました。
タッチでは、触れられることにより毛根に巻きついた「C感覚繊維」が振動を感じ神経興奮を起こして気持ちよさを感じるとのこと。水族館の魚ですらマッサージを求めて順番待ちをするという動画には会場からもどよめきが起こりました。

気持ちよさを感じてもらうための適切な圧や手を動かす速さについても解説されました。また、タッチする側が相手を思いやりながらケアを行うことで、施術されている者よりしている者の方が、オキシトシンが分泌されることも数値で示され、ケアすることで自分自身がケアされていると感じるのはこういうことであったかと納得する内容でした。
演習では「頑張って」「大丈夫」「嫌いだ」「愛してる」などの様々なメッセージを相手の背部からのタッチで表現し合いました。

ケアすることを職業としている私たちにとって欠かせない、タッチの大切さと奥深さをエビデンスとともに学ぶことができたと感じます。

「て・あーての思想」

川嶋代表の講演では、絵本や童謡の中で表現されている「手」を通して、暮らしの中に手を用いた営みが根差し、癒し・いたわり・いのちの薬となる食事を作り・・・人の手が原始の時代から大事な役割を果たしてきたことが語られました。

タッチングの重要性では、重要なのは触れる時間の長さではなく「触れ方の質」である、と受講生たちの手を自らセラピューティックタッチで触れ、そのやわらかく優しいタッチで受講生を感動させました。
て・あーての語源や、東松島のマッサージによってギターを奏でた方の話では涙ぐむ受講生もいました。「誰もが生まれて生きて良かった生を全うする」ことができるように、人間らしく生きて行くことを援助することにこそ看護の専門性があるにもかかわらず、そこに価値を置けなくなっている看護の現状についても投げかけられました。熱いタオルと手があることでどれだけの人々の自然治癒力を発揮させられることか。手を用いたケアの価値と現状の課題について考えさせられる講義でした。

「『動く』を支えるケアとしてのポジショニング」

窪田氏の講演では、健和会で勤務していた際の視察でデンマークの看護と福祉機器に出会い受けたショックから補助器具センターを立ち上げたことや、当時、まだ普及していなかった在宅リフトの導入により利用者や家族が生き生きと変化していった様が映像とともに紹介されました。

外国では法律で禁止されている介助方法が、日本では当たり前のように行われていること。ポイントにかかる圧を減らすだけの体圧分散の考え方が、対象を動けなくするケアになっていること。緊張が取れれば拘縮も改善する=緊張を強いているのは私たち看護師である、などは多くの受講生にとってショッキングな内容でしたが、適切な関わり前後の利用者の変化が紹介され、皆納得の様子でした。
徐圧マットの使い方についても、看護師は傷を治す係なのか? それとも動ける体作りをする係なのか?と問いかけられ、全人的に見ることの大切さを改めて考えさせられました。

2日目は演習中心の研修でした。
1日目の 「『動く』を支えるケアとしてのポジショニング」の演習として、
ベッドを使った背上げの苦しさや、背抜きをすることでの苦痛軽減の体験をしました。
また、滑る道具(スピラドゥ、マルチグローブなど)を使うことで、靴の脱ぎ履き、弾性ストッキングの着脱がスムーズになり、ベッド上での体位変換・移乗が介助者にとっても介助される者にとっても安楽であることも体験しました。
スピラドゥを初めて手にする受講生も多く、使い方に苦戦していましたが、コツを覚えるとおもしろいように軽くスムーズにでき、あちこちから歓声が上がっていました。

「熱布バックケアを極める」

平松理事は、熱布バックケアを「極める」とし、川嶋代表の講義から引き続く形で、対象の尊厳や可能性を引き出す生活行動援助を探求することの重要性を語りました。気持ちいいケア、中でも温熱刺激を用いたケアとマッサージが身体に及ぼす心身の変化=効果と様々な対象への実施について過去の実践結果も例に挙げながら丁寧に説明されました。
熱湯を用いて絞るタオルは、絞り方やタオルの広げ方・あて方に細かい配慮が必要で、その配慮によって、より気持ちよさや効果が期待できます。
演習では2人ペアになり、タオルの熱をいかに逃がさず気持ちよさを提供できるかを考えながら熱布バックケアを体験しました。
温タオルの気持ちよさに加えて、タオルをなじませたりマッサージしたりすることで気持ちよさが倍増する体験により、皆、温熱効果と手の効果を実感した様子でした。

 演習後には、ロブセンターGenrose.J.Alfano氏の「職務志向の看護」と「専門職志向の看護」の違いを挙げ、専門職として手を最大限に活かした癒しのケアの普及を進められるよう講師から投げかけられました。

グループセッション──講師と語ろう

本研修の振り返りと活用に向けたグループワークでは、各グループとも活発に意見交換がされていました。
いずれも、触れること・手を用いてケアすること、実践すること、そしてこれからも学ぶことに前向きな内容でした。

最後に葛西看護部長により2日間を振り返って1講演毎にまとめがされ、て・あーてを活用・普及されるようエールが送られました。

終了後のアンケートでは、次のような感想をいただきました。

・触れることのエビデンスやなぜ看護にとって触れることが大切なのかを理解できた

・窪田氏の講演と演習では新しい知見を得、福祉用具の効果を実感するとともにこれまでの誤った方法を振り返った

・平松理事の熱布バックケアでは手と熱い蒸しタオルのもたらす効果やタオルの扱い方次第でより効果的なケアにつながることが確認できた

手の技の大切さとケアの実践が、さらに普及されることを期待したいです。

(東郷 記)

2020年2月27日