東京て・あーて塾 を開催しました ─2日目─

前回に引き続き、東京て・あーて塾「て・あーての基本 触れるケア~心の声を聴き、心地よく触れるケア技術を高める~」のご報告です。

「て・あーて」を当たり前のケアに

て・あーて塾2日目は、重見美代子理事(美須賀病院)による報告「て・あーて塾からの学びと実践」で始まりました。
重見理事は、2014 年の「て・あーて塾」でオイルマッサージを学んだ後、すぐに臨床で実践。
翌日、患者の両手背の浮腫が軽減していた驚きと、目に見える変化に嬉しくなったことが、ケア継続のきっかけとなったとのこと。
その後も、スタッフとともに「て・あーて塾」に参加し、熱布バックケアプロジェクトを立ち上げ、ノーリフティングケアとともに、現場で取り入れたそうです。
患者のADL、QOLが大きく改善された様子が豊富な事例を通して紹介され、今では当たり前のケアとして定着したことが伝わってきました。

さらに、スタッフが「忙しい」と言わなくなり、安楽を追求する様子が増えるとともに、チーム力も向上。「て・あーて」は患者・家族からはもちろん、経営陣からも認められるケアになったそうです。
患者の自然治癒力、回復力を高める成功体験が継続の大きな力になっていると感じました。
いきいきとケアをしているスタッフ方々の姿が目に浮かぶようでした。

高度急性期にも発揮される「て・あーて」による看護力

2つ目の報告は、辻盛栄氏(千葉県総合救急災害医療センター)による「高度急性期での実践」。
ICUの目の回るような切迫した環境の中、2020年にCOVID‐19による重症死亡事例を体験。何かもっとできることがあったのではないか、と考えていた時に思い出したのが「熱布バックケア」です。
講習会を開催し、まずは体験してもらうことが一番と、ナース自身にその気持ちのよさや体調の改善を実感してもらったことがその後の活動の大きな推進力となりました。
すぐに院内でプロジェクトチームを立ち上げ、試行錯誤を重ねながら熱布バックケアと腹臥位のワンセットケアを継続。
ケアを受けた患者の酸素化や換気量の改善がデータで示され、人工呼吸器からの離脱や挿管回避などの効果が報告されました。
ケアの様子や患者とのやりとりを映した貴重な動画から、その効果が臨場感を持って伝えられ、高度急性期においても発揮できる看護力の大きさ、すばらしさに感激しました。

組織として”手を用いたケア”を定着させる

続いて、桑折しのぶ氏(柳原リハビリテーション病院)、近藤まこと氏(同病院)からの報告。
桑折氏からは、「”手を用いたケア” 定着への法人看護部の取り組み」として、院内におけるチームでの取り組みが報告されました。
看護部方針である「日常生活行動援助に価値を置き、自然治癒力を高める看護の実践に努める」を実現するために、役職者体験研修や伝達講習などの機会を設け、チームでケアに取り組む風土を醸成。
また、事例検討会での実践報告や学びの共有、集積した実践データの分析とフィードバックなどが、ケアの継続とモチベーションアップにつながっているそうです。

近藤氏からは、”手を用いたケア” が定着するまでの病棟での具体的な取り組みの経過が報告されました。
定着につながった要素として、”手を用いたケアの実践” を病棟目標に位置づけ、技術習得のための研修や実践状況の共有を組織的に行ったこと、記録用紙の簡素化などが挙げられました。
スタッフは、”手を用いたケア” の効果を実感するとともに、患者の笑顔や喜ぶ姿に癒され、やりがいを感じているとのことでした。

「て・あーて」の力を実感、さらなる拡がりを目指して

3つの病院の報告からは、「て・あーて」が定着していくまでの工夫と努力、実践状況と成果が伝わってきました。
その後の交流では、参加者16名中唯一の看護学生さんが、「目玉と心(!)が飛び出るようです」と話された言葉が印象的でした。

午後は、日常のケアに取り入れてほしい‟軽擦法” と、“タオル1枚でも実施できる熱布ケア” について、コツやポイントを踏まえた講義と演習を行いました。
軽擦法では、肩甲骨間にあるツボを中心に撫で擦る手技を、ペアを組みかえながら、圧力の強弱や密着度の違いを体験し、感想を伝え合いました。
熱布ケアでは、1枚の熱布タオルを腰部にあて、軽擦法と併せてのケアを体験してもらいました。
「ああ~気持ちがいい」「汗が出てしまうほどです」など、たった1枚のタオルでも方法次第で極上の気持ちよさをもたらすことを実感できたと思います。

軽擦と熱布ケアのぬくもりの余韻を感じる中、今後への活用について参加者同士の交流の場を設けました。
ケアの効果を高めるためには、相手の心に寄り添い、そばにいて聴く、触れるなどを通した信頼・人間関係の積み重ねが大切です。
その実践を継続することは、自分自身にとって一生の強み・技(スキル)になることも確認しました。

最後に、「て・あーてが、それぞれの職場で実践されることを期待します」との川嶋代表の言葉で終了しました。

「て・あーて」の基本と触れるケアの力を詰め込んだ2日間のプログラム、学んだ知識やスキルが、参加者の皆さんを通して拡がっていきますように。                          

(山本富美子 記)

2024年12月30日